異世界で帝国の皇子に出会ったら、トラブルに巻き込まれました。
「まあ、ライネス。急に何を言い出すのかしら? やんちゃな子どもみたいに親をからかうものでなくてよ」
閉じた扇で口元を隠す皇后は、涼やかな声で笑う。
「あなたはこのわたくしの長男であり、現皇帝陛下の第二皇子。もっと言動に責任をお持ちなさい」
「覚悟などとうに出来ていますよ、母上」
あくまでも話をずらそうとする母親に、ライネス皇子は至極真面目な顔で答えた。
「俺はもともと皇太子に相応しくはないし、誰よりもその資格はない。その理由を知るのは……他ならぬ母上ではありませんか?」
ライネス皇子は淡々と語りかけてはいたけれども、その静かな口調にはどこか痛ましい何かが含まれている気がする。彼が皇太子候補を辞退するのはよほどの重い理由がありそうな……そんな仄めかし。
ただ、今のあたしは望む望まないに関わらず、ひとの心が流れ込んでくる時がある。それは世王の血を引く水瀬の巫女ゆえ。
そして……皇后もライネス皇子も私と同じ血を引いていたから、それがはっきりと理解できる。
――おれは、父上の血など引いてはいない。
衝撃的な事実を知ったのは……ライネス皇子の声なき叫びからだった。