異世界で帝国の皇子に出会ったら、トラブルに巻き込まれました。






(どういうこと? ライネス皇子が皇帝陛下の血を引いてないなんて……)


そんな馬鹿な、と思う。彼はバルドにちゃんと似ていた……けれど。そういえば、以前バルドが何かを言っていた。皇族に関して。


あたしは必死に思い出そうとしながら、二人が相対する様を見守る。母と息子。誰よりも濃く血が繋がるゆえの独特な緊張感が、この広い会場を支配する。


息子から明確な仄めかしがあったにも関わらず、皇后は一切変わらない。どころか、彼の意思など全く無関係なように振る舞った。


「ライネス……馬鹿なことをおっしゃらないで。あなたに流れる高貴な血は、誰よりもこの帝国を支配するに相応しいのです。第一の妻であるわたくしの息子のあなたには、帝位を継ぐ義務があるのですよ」


「……母上」


なおも息子の言葉を真に受けない皇后に、ライネス皇子は憐れみを含ませた目を向けた。彼が首を傾けた瞬間、サラリと髪が頬に掛かる。


セリス王子も似た髪色だった……とぼんやり思った瞬間。釣られてバルドの言葉を思い出した。


……セリス王子は一度ディアン帝国の皇子を名乗った。それを否定した時……バルドはなんて言った?


たしか容姿で一番わかりやすい要素を教えてくれた。


髪……そう。髪の毛の色について喋った。


“ディアン帝国の皇族ならば、生んだ母がどんな地から嫁ごうが髪が黒で生まれる。アンタに皇子と名乗ったヤツは、黒髪だったのか?”


黒……


ディアン帝国皇族の証は、黒髪であること。


でも……


あたしは改めてライネス皇子を見る。


彼の髪色は……


皇后によく似た綺麗な銀色……シルバーブロンドだった。



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