異世界で帝国の皇子に出会ったら、トラブルに巻き込まれました。
「そ、それは?」
「帝国皇族の証。生まれた時に選定された石をはめ込み、ずっと身につける。それこそ死ぬまでな。何があっても体から離れず、他人に身につけることはできない」
漆黒のマントを戻した男は、何の感慨もなく淡々と現実を告げる。
「その腕輪が無ければ、いくら血を引こうが皇族と認められない。オレのすぐ下の弟ならば全く違う名前で帝都にいる。第1皇子のオレに代わって政務をとっているはずだ」
――知りたくもなかった、残酷な現実を。
「セリス皇子……は……皇子でなかったんですか?」
「正式な皇族という意味で言うならば、“否”だ。父上には5人の皇子がいるが、その中にセリスという名前はいない。」
そして、男は決定的な証拠を突きつけた。
「ディアン帝国の皇族ならば、生んだ母がどんな地から嫁ごうが髪が黒で生まれる。アンタに皇子と名乗ったヤツは、黒髪だったのか?」
「……それは……」
セリス皇子……いえ、セリスは銀髪だった。それに、腕輪をしていた記憶もない。
どういうこと? セリスが嘘をついてあたしに近づいてきたって言うの?
あたしに気をつけろって警告しておきながら、もしかすると彼自身が一番危険だった?
「うそ……そんなの! 信じない」
「どう判断しようがアンタの勝手だがな」
本当にどうでも良さげに、男は言う。
「信じる、信じないは自分で決めろ。他人にすがり付くな」