異世界で帝国の皇子に出会ったら、トラブルに巻き込まれました。
それまでどれだけ高位の女官だろうと、大貴族出身の妃だろうと。あたし達のやり取りに誰一人口出しして来なかった。
たぶん、恐怖感で縛りつけられてる。次々とあり得ない変事を目にして。
まず、この晩餐会の前には皇后とアイカさんによる“黒い霧の支配”があった。女性は倒れて男性は完全に囚われて、皇帝陛下をはじめとするバルド派を排除しようと攻撃した。
あたし達が霧を消滅させた時にこの件に関する記憶も消すよう願ったけれど、もしかするとうっすらと残っているかもしれない。
そして、皇后による無差別攻撃。それはこの会場に居る人たち全員に、のべつまくなしに行われた。
目に見えない衝撃による攻撃。だからこそ、誰が行なったか分からずに恐怖が募る。主人を護ろうと気丈な侍女や勇気ある護衛は妃のそばにいるけれど。
皇后付きの女官長や侍女長は……どうしたのか、真っ青になって震えてる。
まさかと思うけれど……今ごろになって彼女の異常に気付いたの?
警護の責任者である近衛兵だけは辛うじて彼女の前面に出ているけれど。鍛錬を積んだはずの軍人であるその目には言い様がない動揺が浮かんでる。
あたしと皇后とライネス皇子以外誰もが口を開くのを躊躇う中で……意外な人が発言をした。
「恐れながら、皇后陛下に申しあげます」
とてつもない重圧の中で自ら口を開いたのは、あたしの脇に控えたミス·フレイルだった。