異世界で帝国の皇子に出会ったら、トラブルに巻き込まれました。
「皇后陛下、今回は取りやめられてはいかがでしょうか? 体調が優れない方もいらっしゃいますし」
「ほほほ、何をおっしゃるの? 逃げようとなさっても許しませんことよ」
皇后は甲高く笑った後に扇を広げる。そして、彼女がそれを振った途端に異変が起こった。
突然【闇色の焔】が周囲に噴き出し、会場を完全に取り囲んだのだ。
「きゃあああ!」
他の妃は完全にパニック状態で、そばについた侍女や護衛も彼女達を護ろうとするものの、相次ぐ怪異に及び腰になるのは仕方ない。
黒い焔は普通の火と違い、煙を立たせることはない。けれど……形あるものをすべて飲み込もうとうねっていた。
晩餐会のために用意された料理がテーブルごと焔に包まれると、あっという間に食らいつくされて崩れゆく。跡には灰ひとつ残らない、完全な“無”がそこにあるだけだった。
それだけでなく……黒い焔はあっという間に会場の壁と床を覆い尽くそうと広がってゆく。辛うじてあたしの周りは無事だからか、たちまち多くの人たちに取り囲まれた。
(まずい……)
これは予想外だった。
あたしの周りにいる人たちはごく普通の人間。多少の霊力や魔力を宿す人もいるけれど、皇后の圧倒的な力に対抗など出来やしない。
ましてや……この【闇】の焔には。
あたしの力は物質的な制約はないけれど、【闇】にどれだけ対抗出来るかは未知数。
けれど、やるしかない……そう決意をした時。
地の底から、唸るような咆哮が響き渡った。