異世界で帝国の皇子に出会ったら、トラブルに巻き込まれました。



会場全体が地の底から揺さぶられる。けれど、パニックに陥った人たちを、アスカ妃は叱咤激励した。


「落ち着きなさい!今は離れないで。水瀬の巫女を信じて、彼女にすべてを委ねるのです」


さすがに後宮で一番の胆力を持った女性。こんな不慮の事態にも狼狽えず、逆に他の女性達を導こうとする。


「アスカ様!」

「アスカ様……どうかお助けを」


「大丈夫です。しっかり気を持ちなさい。怖がったりするよりも、今は楽しいことを考えること。これが終わったら何をしたいか……美味しいものを食べたりお洒落をしたり。外出を願ってもいい。心が浮き立つようなしたいことを考えなさい」

「む……無理です」


涙ながらに妃の一人が訴えれば、アスカ妃はそれならばと彼女に提案した。


「なら、歌って下さらない? わたくしはいつかあなたの美しい歌声を聞いてみたいと思っていたのです。
歌えば、少しは落ち着くでしょう」


アスカ妃は他の妃に向かってにっこりと笑う。けれど、やはり彼女は青ざめたまま首を横に振った。


「……申し訳ありません……今はとても……お聞かせできる歌など歌えません」

「あら、何もコンサートを開く訳ではないわ。あなたが歌いたいものを好きに歌えばいいだけ……そうね。たしかあなたの年代だと“フゥールタント”が流行ったかしら」


アスカ妃が曲名らしき言葉を出すと、年若い妃がパッと目を輝かせた。かなり躊躇っていたけれども、アスカ妃が促すと……彼女は深呼吸をしてゆったりと歌い出した。


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