異世界で帝国の皇子に出会ったら、トラブルに巻き込まれました。
「母上!」
ライネス皇子が何度呼びかけても、皇后は彼に応えない。そんな彼女にそっと寄り添ったのは……アイカさんだった。
「お止めください、ライネス殿下。今の皇后様は……心がここにありません」
「アイカ……なぜおまえに判る?」
「……」
アイカさんは何も言わず、ただ首を横に振る。その悲しげな瞳には……誰も何も言えなかった。
アイカさんが指摘した通りに、確かに皇后は心ここに在らずといった様子。いえ……実際にそうだ。同じ血を引くゆえの感応。
皇后の心は……遠くへと去ってしまっている。
そして、彼女の心が虚ろになるに従い地の底から這い出す存在(もの)。
それは、秋人おじさんが作り上げた封印を。あたしが強化した封印すら揺らがせ、破壊せんと蠢く。
「……そんな……なぜ?」
あたしは、確かに約束した。必ず事態を収めるからと。だから、彼は解ったと答えたはず。それまでは強固な封印で仮の眠りに入っていたはずなのに。
なぜ、それが破られているの!?
「ああ……お兄様。ようやくわたくし達の時代が……」
皇后が呟いた瞬間――
“古代最強の破壊兵器”が――その巨大な姿を現しつつあった。