異世界で帝国の皇子に出会ったら、トラブルに巻き込まれました。
《“龍”はあの女の感情に引きずられておる》
今の今まで沈黙していた雷焔が、そう告げてきた。と言おうか存在すら忘れてた。
「どういうこと? 皇后の感情に呼応しているって……古代兵器はあれだけあらぶってる。なら、皇后も」
《“龍”とやらとあの女は似ておる。世に絶望し人間を憎むところも……な》
ヒスイはどこか痛ましげに皇后を見遣る。長い時を生きて代々の巫女と共に在った彼女は……何かを知っている?
「ヒスイ……それはどういうこと? 皇后がなにか」
《わらわはあの女とその兄の幼い頃を知っておる》
唐突に、ヒスイはそんな事を言い出した。一体なぜそんな話をするのか分からずに苛立つ。
「今はそれどころじゃないでしょう! 早く“龍”の暴走を止めないと。雷焔、“龍”を抑えられる?」
《我を使うというならば、それなりの代償が必要となる。それでも良いのか?》
そもそも雷焔は人の存在を超えたもの。人間を護る義理も義務もないのだから、気まぐれな彼がそう言うだけでもかなりの譲歩と言えた。
「構わない……あたしと赤ちゃんの命以外だったら好きに使って」
《――よかろう……“それ”と引き替えに、今は協力をしてやる》
次の瞬間――ものすごい高温の焔が立ち上ぼり、形を成していく。あたしは水瀬の巫女の力を使い、皆をその焔と高温から護り続けた。
雷焔の焔は黒い焔を飲み込み消滅させてゆく。女性たちはアスカ妃を中心に、気丈にも歌い続けていた。
焔と焔がぶつかり飲み込みあう。地獄のような景観の中で――ヒスイが叫んだ。
《あの女……皇后は……マリィは。実の兄に囚われているのじゃ!!》