異世界で帝国の皇子に出会ったら、トラブルに巻き込まれました。
――マリィ?
何の事かと訝しく思ったけれど、しばらくして思い出した。
“お姉ちゃん……あたしをたすけに来てくれたの?”
後宮へと繋がる廊下の間で会ったシルバーブロンドの女の子。何だか怯えた様子で……すごく可哀想だったけど。まるで幻のように儚く見えたし、実際幻影のような邂逅だった。
彼女は、マリィと名乗った。それから……こうも言ったっけ。
“……兄上様が……あたしを離してくれないの”
マリィ……皇后の名はマリィ? いいえ、確か彼女の正式な名前はマリールイズと言ったはず。
だけど……と思い出す。名前が長いと愛称として縮めて呼ばれることがある。ユズがティオンバルト殿下をティオンと呼ぶように。
(なら……皇后陛下の幼名や愛称がマリィとしたら……あの時の女の子は皇后の幼い時代の記憶。けど……兄が離してくれないって……一体どういうこと?)
あたしが疑問を持って皇后を見た刹那――急に彼女の心が入り込んできた。
“お兄様――わたくしの……わたくだけのお兄様”
熱く、苦く、そして……狂うような想いが。
“お兄様……これでようやくわたくしだけのものに。どんな女にも……渡しはしませんわ……わたくし以外の女など全て死ねばよい。わたくしのお兄様を惑わす存在など消えてしまえ!
お兄様はわたくしだけのもの……わたくだけの……”
「あははははは!」
暴れ狂う焔の中で――皇后は狂ったように笑った。