異世界で帝国の皇子に出会ったら、トラブルに巻き込まれました。
「お母様……」
傍らにいたアイカさんが、遂にそう呼んだ。
「和さんのおっしゃる通りです。所詮……人の身では神になることなどできませんわ。いくら憎くとも……他のひとだとて生きています。あなたと同じ喜怒哀楽のある人間ですのよ?」
アイカさんは必死になって説得をするけれど、皇后の体からは絶えず黒い霧が噴き出してくる。アイカさんは意を決したように、その身体を抱き締めた。
そして、自身から赤い霧を発生させて皇后の黒い霧を消そうとする。
「お母様……お願いですから心を戻してください! ライネスも……わたくしもいます。わたくし達を見て!」
アイカさんはぼろぼろと涙を流しながら、説得を続ける。ライネス皇子も異母姉に続けて母に語りかけた。
「そうだ……母上。また皆で行きましょう……あの高原のピクニックへ……アイカと……おれと……あなたと……ラインハルト叔父上とで」
ライネス皇子がそう語りかけた途端、今まで虚ろだったの指がピクリと動いた。
(これだ……幼い記憶)
あたしが出会った幼いマリィは助けてと言った。けれど……辛い記憶ばかりではないはず。
きっと、ある。幸せな楽しい思い出が。
「アスカ妃、お願いします! 皇后様がお好きな歌があればそれを歌ってください!」
あたしが急いで伝えると、アスカ妃は全てを承知したのかしっかりと頷いた。
そして……彼女が中心となって歌い出したのは。
“七つの子”……日本でも有名な、皆が知る童謡だった。