異世界で帝国の皇子に出会ったら、トラブルに巻き込まれました。
でも、いい。
あたしは……きっとまた、愛せるから。
《雷焔、もっと持っていって! 龍を完全に押さえて!!》
あたしの望みに応えるように、雷焔の力が強まる。それと同時に、ライネス皇子が動いた。
動き出した“龍”に向かうと、抜いた剣で何かを描き始める。おそらく結界を強化する術だ。ヒスイもそれを手助けするためか、力を貸している。
アスカ妃は皆を励ましつつ、より一層大きな声で歌う。その温かな歌声は次第に広がり、皇后の心に届いた。
《――今だ、和》
ふと、秋人おじさんの声が聞こえた気がした。
振り替えれば――おじさんの笑顔が微かに見えて。
あたしは……水瀬の巫女の力を全て、皇后へ向けた。
「思い出して……あなたはマリールイズ。ただの一人の女性ということを!」
あたしが叫んだ刹那――
皇后が、ハッと目を開いた。
「わたくしは……マリールイズ……マリィ……皇后マリールイズ」
彼女が正気に戻った瞬間。
黒い焔も、霧もすべてが失われた……そして。
“龍”は雷焔に完全に押され、ライネス皇子とヒスイが施した封印へと飲み込まれてゆく。
それを見届けた瞬間――
あたしの意識は闇へと落ちていった。