異世界で帝国の皇子に出会ったら、トラブルに巻き込まれました。
「だいぶん気分が晴れたようでよかったですね」
レヤーの声で、意識が現実に返る。
「知っていたの? わたしが落ち込んでいたのを」
「まあ、だてに1年以上ご一緒させて頂いてませんから」
初めて、レヤーは過去に触れる発言をした。彼の話通りに1年以上前から付き合いならば、わたしが懐妊する前から知っているということ。
「そろそろ潮時と思いますよ……やはり幼子には親御さんが必要でしょう」
「……お腹の赤ちゃんのこと?」
レヤーの背中に座ったまま、大きなお腹を抱える。この子の父親について話そうとしている気配に、わたしは不安を抱いた。
「レヤー……知りたいけど怖いよ。だって……その人はわたしをどう思っているのかわからないもの」
《怖がるな》
「えっ!?」
突然、レヤー以外の声が響いてきょろきょろと周りを見回すと――見知らぬ女性がいつの間にか頭上に浮いてた。緑色の綺麗な髪をふわふわと舞わせ、不思議な古代ふうの衣服を身に付けてる。
そして、胸に提げている翡翠の勾玉から光が放たれていることに気付いた。
《妾はすべてを観てきた……そなただけでなく、巫女の千年の歴史のすべてを》
「巫女……何の話?」
とても美しい造形を持つ美女は、フッと微笑む。それは悲しいような、それでいて安堵したような。不思議な笑顔だった。
《ようやく……終わったのじゃ、すべてが。そなたが終わらせた――秋月 和どの。最後の水瀬の巫女よ。ようやってくれた。そなたのお陰で悲しい宿命の輪は閉じられた。ゆえに――妾はそなたに返そう。この勾玉に記されし記憶のすべてを》