異世界で帝国の皇子に出会ったら、トラブルに巻き込まれました。
「ロゼッタさん、これだけお願いします」
あたしはハルトから託された卵を彼女に預ける。もうすぐ孵化しそうなのに、ハードな出来事の連続でも割れる気配がない。それでも時折動いてはいるから、まだ孵化する可能性はある。
少ない荷物も置いてお店から出ると、隣に薪を置いた空き地があって、男が手にした木刀をこちらへ投げて寄越した。
「それでオレに、一発でも打ち込んでみろ」
そう言い終えた男は、腕を組んで壁に凭れ掛かる。すっかり気を抜いた様子に、はなから本気で相手にされてないと頭に血が昇りそうになった。
グッ、と両手で木刀を握りしめて男を睨み付けると、デタラメに構えて宣言する。
「泣いてからじゃ、遅いよ! 本気でいくから」
「威勢だけはいいな」
は、と鼻を鳴らした男にムカついて、思わず飛び出そうとしたけど。待て、と自分の中でストップが掛かる。
(前後見境なく熱くなったって、いいことは一つもない。冷静に、なれ。チャンスは必ずある)
ぐぐっ、と木刀を握る指に力を込める。やはり、やつに隙は見えない。一見リラックスしてるけど、全然油断なんてしてないんだ。
こんな時に自ら突っ込むのは自殺行為。素人のやることだと言い聞かせて、男の出方を待つことにした。