異世界で帝国の皇子に出会ったら、トラブルに巻き込まれました。



けど、いくら待っても男は動かない。彫像にでもなったみたいに、ピクリともせずにいて。こちらが焦れてしまいそうになる。


じりじりと太陽の光が肌を焼くし、汗を大量にかくほど暑いし、熱砂で乾燥していくのに微動だにしない。すごい根性だ。


このままだと確実に熱中症になる。なのに、一時間は経っても男は動こうとしない。


(こちらが焦ることを待ってるんだ……なら、わざとその手に乗ってやろう)


ずっと同じ姿勢でいたせいで筋肉が強張り、腕が微かに震えてきた。これ以上は辛い。決着を着けるためにも、こちらから動かなきゃ。


男の体格と姿勢で攻撃のリーチと動きを計算し、頭の中で素早く組み立てていく。それが固まってから、体をほぐすために軽く筋肉を動かした。


(きっと、一度じゃ勝負はつかない……なら。やれることをやるだけ)


キッ、と男を睨み付けて木刀を片手で持ち直し、右足に力を込めて大地を蹴った。


「やぁあっ!」


気合いを入れた一撃を、まずは一度。大きく振りかぶった一発は最小限の動きで容易く交わされる。左右に避けると思われたのに、男は体を沈み込ませ――そのままあたしのみぞおちに拳を叩きつけてきた。


「うあっ……!」


予想以上の、衝撃だった。


痛い、なんてものじゃない。お腹がぐちゃぐちゃになったみたいな、鈍くて熱い衝撃。反射的に、吐きそうになったけど何とかこらえて足を踏ん張ったけど。その足に、容赦なく蹴りが叩き込まれた。


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