異世界で帝国の皇子に出会ったら、トラブルに巻き込まれました。



頬を殴られたし、鼻も。二度ならず全身が壁や地面に叩きつけられ、体がバラバラになるかと思えるほどの痛みが身体中を襲う。


それでも、あきらめない。


あたしは、絶対にあきらめない。


「ナゴム、ダメ! シヌヨ!!」


ロゼッタさんの叫びが、ずいぶん遠くに聞こえる。鼓膜がやられたのかな? まぶたが腫れてるせいで、視界が狭くなってる。


けど……あたしは。


「絶対に……あきらめない!」


一歩、踏み出しただけで全身に激痛が走る。それを堪えて繰り出す一撃は、予想通り避けられた――けど。それは、予測の範囲内だった。


あたしだって、むやみやたらに攻撃を受けてない。やつの動きの癖やパターンをきっちり把握してきた。


そこに膝蹴りを叩き込むと、案の定拳で止めにきた。それは、フェイント。本命の攻撃は左手を使った手刀。それもギリギリで交わされた。


――こいつの最大の弱点、それは左利きであること。だから、左右の動きが微妙に違う。あたしはその一瞬を見逃さない。


「はっ!」


コン、と間が抜けた音が響いた。気がつけば――あたしの渾身の一撃は、男の腕にある防具で防がれてた。


「そ……そんな」

「勝負、あったな」


男の冷静な声で、全身から力が抜けて途端に激痛が甦る。そして、そのまま意識がブラックアウトした。




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