異世界で帝国の皇子に出会ったら、トラブルに巻き込まれました。
ニガニガヒギの薬湯を飲んで思い出した。あたしは、あの名前も知らない男に負けたんだ……って。
ギュッ、と拳を握りしめて布団を叩く。ビクッとキキさんを震えさせてごめんなさい。だけど、悔しくて仕方なかった。
「結局……あたしは何も変えられなかった。あの男に着いてく資格もないんだ……」
そのまま、グッと布団を握りしめる。力を入れすぎて震えた拳の上に、ポタリと滴が落ちる。そうなると、涙が後から後から落ちて止まらない。声を上げることなく、あたしはただひたすら涙を流した。
「あ……あの、和さん」
そっと背中に添えられた手を振り払い、あたしは布団に潜り込む。
「ごめん……こうしてお世話になって、ありがたいし助かるけど……あたしは今、あなたのご主人様の話は聞きたくない。あたしと違って、何もかもある人の話は聞きたくない……」
「和さん……」
あたしは最低だ。3日も世話をしてくれた親切な人まで八つ当たりして傷つけ、遠ざけようとしてる。
けど、これ以上傷つけないために。誰もを近づけたくなかった。今のあたしは、ハリネズミみたいに針をいっぱい尖らせてる。自分がたくさん傷ついたから、誰かを傷つけかねない。
「気づいたこと、みなさんに知らせてきますね」
キキさんはそれ以上何も言わず、黙って部屋を出ていった。