異世界で帝国の皇子に出会ったら、トラブルに巻き込まれました。





「あれだけオレに食らいついたクセに、おまえはあの程度で諦める覚悟しかなかったのか? ずいぶん軽く見られたモノだ」

「えっ……」


ギクッ、と肩を揺らせば激痛が走る。それを押さえながら、あたしは目の前にいる男に目を向けた。


いつの間にこの部屋に入ったんだろう。少なくとも目覚めてすぐにはいなかったはずだけど。


「あ、あなた……あたしを置いていったんじゃないの?」

「……」


男は黙ったまま凭れた壁から離れ、あたしの前に歩み寄る。改めて見ると、すごく背が高いし屈強って感じだけど。だからといってムキムキマッチョじゃない。スラリとして戦士としては細身かも。


それでも、上背があるせいか威圧感が半端ない。


「自分で、決めろ」


男は腰に提げたバッグからひとつのガラス瓶を取り出すと、コトンとテーブルに置いた。銀色に輝く粒の……なんだろう?


「オレは、明朝まで町にいる。来たければそれまでに全てを用意しておけ」


バサッとマントを翻し、男は部屋を出ていく。


慰めるでも優しくするでも、突き放すでもなく。あくまでもあたしが決めろ――と。生半可な決意では到底連れていかれない、ということか。


(やって……やってやろうじゃないの!)


まだ希望があるのだと知ったあたしのなかに、再び炎が燃え立つ。チャンスはある。それを生かすも殺すもあたし次第なんだ。


あの男に、ついていこう。そう決めるのに時間はかからなかった。



< 97 / 877 >

この作品をシェア

pagetop