さよならさえ、嘘だというのなら
転校生
「本当だったんだね」
二つ並べた自転車から
俺達は首を伸ばし
丘の上の建物を見上げていた。
おばけ屋敷。
口には出さないけど
この町の人間は
誰もが認めているだろう。
小高い丘の上にある洋館は
バブルという俺達が生まれる前にあったらしい都市伝説期間に建てられ
その泡が弾けると共に屋敷の主も弾けてしまい、白いお屋敷と広い庭が残された。
今までの間
何人が別荘代わりに使っていたようだけど、ほとんど続かず。
最後に住んだのは誰だったのか
いつだったのかも覚えていない。
お城のような洋館は色あせている。
広い庭は雨と太陽を浴びてスクスクと草は育ち、ジブリ映画に出てくる草原と化していた。
そこに
新しい住人が住むという噂が流れ
俺と七瀬は
夏休みの部活終わり
回り道して自転車を飛ばす。
「誰が住むんだろ」
額の汗をキャラクターのハンカチで押さえながら、七瀬は俺に言う。
「さぁね」
俺は小さく答え
果てしなく生えている草だらけの庭を手入れする業者と、大きな引っ越しトラックから運ばれる荷物を目で追い続ける。
「もう帰ろう颯大(そうた)。黙って立ってると地獄だし。暑くて死にそう」
いつからだろう
七瀬が甘えた声を出すようになったのは
中学校の頃は
俺より怖い声を出してたのに。
「野々村商店でガリガリ君おごってよ」
「自分で買え」
「颯大のケチ」
七瀬はツンとして自転車のハンドルを握り直す。
4月から高校に入り
急に身長差がついてきた頃からだろうか
「先に帰るから」
おもしろくない声を出し
七瀬はペダルに力を入れて
風のように坂を下りて行く。
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