さよならさえ、嘘だというのなら
「須田!須田凪子!」
大きな声を出し
庭から勝手に二階へ叫ぶ。
「会って話がしたい」
喉が枯れるほど大きな声で
彼女の名前を呼ぶけれど
窓のカーテンも微動だにせず
屋敷は静まりかえっている。
誰もいない?
「凪子!」
会いたい
会って顔が見たい。
話がしたい。
何度もその名前を叫んでも
無駄だった。
全力疾走した後のように身体がボロボロ。
酸欠で倒れそうだ。
ダメだ。
また夕方挑戦しよう。
無反応のお化け屋敷を背にして
草むらにぶっ飛ばしたチャリを起こそうと一歩踏み込むと
何かを踏んだ。
白いそれを拾い上げ
手に取ると目の前が真っ暗となる。
凪子の携帯電話。
古いガラケー。
それもパックリ折られていて
画面の方だけ
あの時公園で俺とメルアド交換したガラケー。
鼓動が速くなり、血が逆流する。
押す方の半分を探したけれど
どこにもなかった。
探して見つけたって
元に戻るワケじゃないけれど
探さずにいられなかった。
俺はストンとそこに座り
黙ってガラケーの半分を見つめる。
これなら
通話もメールもできない。
最後の連絡手段を断たれた俺達。