さよならさえ、嘘だというのなら
山へと

しばらく
呆然とそこに座り
壊れた携帯を持ちゴロリと横になる。

空が高い
白い雲の流れが速い
懐かしい草の香りを嗅ぎながら俺は目を閉じ
そのまま寝てしまったようで、背中に感じた地響きで目を覚ます。

一台の黒い車がやってきて、次々と人が降りて来た。

俺はこっそり自分の自転車を手にかけ、静かに大きな栗の木の後ろに隠れそっと見ると、いつもおなじみの派出所のお巡りさんと、昨夜一緒に話を聞かれた隣町のお巡りさんと、この田舎の雰囲気には似合わないような厳しく怖い顔の男性が二人と凪子の兄である須田海斗が制服姿のまま現れ、合計五人で屋敷の玄関のチャイムを鳴らすと扉は開かれる。

さっき散々俺が叫んでも
誰も出て来なかったのに。

凪子もこの中にいる。
見た事ない怖い顔した男性二人は、大きな町の刑事だろう。

このまま一緒に中に入りたい気持ちを抑え、俺は屋敷を背にする。

絶対助けるから

それだけ心に決めて

俺は樹と光のトンネルを抜けて、自分の家にダッシュした。



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