さよならさえ、嘘だというのなら
「さてさて」
智和おじさんは凪子の方に身体を向ける。
「財閥のお嬢様なんだって?」
おじさんにそう言われ
凪子は身体をピクリ動かし唇を噛む。
俺は手を伸ばし
凪子の手をそっと握り直す。
大丈夫。傍にいるよ。
凪子は俺の手を握り返し
智和おじさんにうなずく。
「こっちに来た時、町の方で調べさせてもらったんだ。お父さんは世界的に知られる造船会社の社長なんだって?」
「はい」
凪子は素直に返事をした。
「親が金持ちでも、この町で好き勝手は許されない」
おじさんの言葉にはトゲがある。
「彼女は何もしてない。何も悪くない。悪いのは須田海斗で……」
「お前は黙ってろ」
「でもおじさん。須田海斗は言ってた『松本結衣の事件は、僕の父親の権力で握り潰しておしまい』って」
「……バカか?」
智和おじさんは疲れた声を出す。
「この町以上の権力はどこにもない」
「だって……隣町から警察も出てきて、凪子の家に行って……」
半分パニくりながら俺が言うと
「警察は形だけの話。妹も兄も一緒のよそ者。この町の住人を傷付けて無事帰れると思ってるのかい?」
おじさんは綺麗な顔を凪子に向けて
冷たく笑った。