さよならさえ、嘘だというのなら
「颯大君」
白い半袖のワンピースを着た凪子が、部屋に入って俺を見上げる。
「凪子?」
「来ちゃった」
恥ずかしそうに彼女は言い
俺の顔をジッと見つめる。
昔と変わらないサラサラした髪はアゴのラインで綺麗に揃え、白い首筋に映えていた。
綺麗な顔は変わらないけど
前より血色がよく
健康的で
笑顔が似合ってる。
「あ……半袖」
あまりの驚きで変な言葉が出た。
いつも長袖の凪子が半袖を着ている。
「プルミルのおかげかな。傷が治ったよ」
彼女は両手を俺に見せる。
彼女にあった無数の傷は綺麗に消えていた。
その分の苦しさと悲しさも消えたように、彼女は笑顔を見せる。
「若い女の子がいたら、うちの診療所も華やかになるだろう。今年看護学校を優秀な成績で卒業した可愛い女の子をスカウトしてきた」
智和おじさんの声が遠く感じる。
凪子?
えっ?
本当に凪子?
夢に見た存在が急に目の前に現れ
どうしていいかわからなくなる。
「ずっと会いたかった」
凪子はふわりと白いワンピースをひるがえし、俺の胸に飛び込んだ。
「智和先生に颯大君の話をずっと聞いていた。もし誰か好きな女の子がいて、私が行って迷惑ならあきらめようと思ってたけど、先生は『絶対大丈夫だから』って言ってくれて……後は弟に全部任せて、勇気を出して家を出た」
泣きそうな声に切なくなり
俺は黙って彼女を抱きしめた。
「血は吸うなよ。もう彼女は俺達の一員なんだから」
智和おじさんは一言残し
逃げるように部屋を出て行った。