さよならさえ、嘘だというのなら
「高校で給食って珍しいね」
凪子が俺に聞く。
「町おこしの一環(いっかん)だってさ」
「お金のある町だよね。施設も立派だし」
「何もない田舎だよ」
自分の町は嫌いじゃないけど
都会から来た凪子と話すと自虐的になってしまう。
「これ美味しいよ」
赤い液体が凪子の紅い唇に吸い込まれる。
「申請すれば週に2回、町民に無料配布してくれるはず」
「本当に?」
「うん。余ってるんじゃない?調子にのって大量生産してるから。でも給食で出るだろ」
「原料はアセロラ?」
「アセロラとトマトの子供のような……野菜のような果物のような……」
俺の例えに凪子は笑う。
「いやマジそうなんだって。ミニトマトに似てるけど、もっと黒いような赤い色で雨のしずくみたいな形をしている」
「お店で売ってる?」
「飲料は売ってるけど現物は売ってない。加工しないと苦くて無理。俺も食べた事ないけど、工場の奥の畑で栽培してる」
そう答えながら
夕焼けに映える大きな煙突を指さした。
「あれも町おこし」
「あそこで作ってるの?」
「うん。うちの母さんも働いてる」
【母さん】より【母親】って言った方がよかったろうか。
変な事を気にしてミエを張る自分に笑えた。