さよならさえ、嘘だというのなら

ニタニタ笑顔の姉弟を見ていると
やっぱり逃げたくなってたら

「お兄ちゃん転校生と自転車乗ってたって本当?」

二階から妹が走って降りてきた。

お前もか!

「どこ情報だよ」
ムキになって聞くと「友達が見てたって」後ろ手からスマホを出してくる。

情報社会って不便だ。

「おじさんも来てたの?ご飯一緒に食べよう」
妹はイケメン独身の智和おじさんが大好き。

俺も話がわかるし
楽しいおじさんが好きだけど
頭の回転が速くて
誘導尋問が得意だから
今日は……苦手な相手と化す。

「おぉ。元気だったか?風邪ひいてないか?」

「おじさん。由実ちゃん大丈夫だった?」

ふと妹は友達の名前を出す。

「あら、由実ちゃんどうしたの?」

心配そうに母さんが聞くと

「今日のお昼頃、貧血でおじさんとこに運ばれたってメイちゃんに聞いたから……」
心細い感じの声で妹が言う。

貧血
流行ってるのか?

「大丈夫。点滴したらすぐ治って帰った」
笑顔で智和おじさんが答える。

「よかったー」

「うちの点滴にはおじさんの愛が入ってるから」

自信満々で誰かさんと同じ事を言う。

姉弟だなぁ。

そして
三人の目は
俺に注がれる。

何をどう話せばいいのだろうって困っていると

「こんばんはー」って玄関から声が聞こえた。

あ……この声は……。

「はーい」
母さんが返事をしながらバタバタと走って行くと

『これうちのお母さんから』

『まぁ立派なトマト。七瀬ちゃんも上がったら?』

『颯大いますか?』

そんな会話が聞こえて
背中がゾワゾワしてきた。



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