さよならさえ、嘘だというのなら

『颯大!七瀬ちゃんよー』
能天気な声に呼ばれて、口元がゆがむ俺。

「もてる男はつらいなー。修羅場かぁ?」

ホントに姉弟だな
そのズルい顔は母さんそっくり。

一度
深呼吸してからコップを置いて玄関に向かう。

俺は何も悪い事はしていない。
後ろめたい事はない。

堂々としてればいい。

覚悟を決めて玄関に行くと

「長くなりそうなら上がってもらいなさい」って母さんは言い、もらったトマトを持って行ってしまった。

残るは俺と七瀬。

堂々とするつもりが

俺とふたりきりになった七瀬の表情を見ると、なぜかドキドキしてしまう。

思いつめたような七瀬の顔。

七瀬はさっきの俺みたいに深呼吸してから、俺の顔を正面からにらみつけた。

「仲いいんだね」
開口一番 そんな言葉。
目つきは鋭く声も荒い。

情報早っ!

「何だよ」
いつもより声が高くなる俺。
昔から誤魔化すときの癖は、付き合いの長い七瀬にはお見通し。

「わかってんじゃん」
腕を組み
サンダル履きで下から見上げる七瀬。

負けてなるものか

「だから何だよ」

声がうわずる。
俺……完璧負けてるし。







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