結婚の定義──君と僕を繋ぐもの──
翌日、ユウはバンドの練習を終えた後、前にレナと買い物に出掛けた時に見つけたジュエリーショップへ、一人で足を運んだ。

ショーケースの中では、たくさんの宝石やアクセサリーがキラキラと光を放っている。

ユウの姿に気付いた店員や買い物客が、ヒソヒソと噂をしていることにユウは気付いた。

(めちゃくちゃ恥ずかしいんだけど…!!)

一人照れて顔を赤くしながら、ユウはショーケースの中を覗き込む。

「彼女さんへのプレゼントですか?」

落ち着いた雰囲気の女性店員がユウに声を描けた。

「まぁ…そうなんですけど…。」

周りの視線が気になってしょうがない様子のユウを見て、店員は微笑んだ。

「もし良かったら、奥でゆっくりと伺いましょうか?いろいろ気になってらっしゃるでしょう?」

店員はそっと店内を見渡す。

「お願いします…。」

ユウは店員に促され、店の奥の目立たない席に通された。

「今日はどのような物をお探しですか?」

店員が笑顔でユウに話し掛ける。

「実は…その…婚約指輪を…。」

ユウが恥ずかしそうに小声で答えると、店員は静かに微笑んだ。

「おめでとうございます。ご結婚なさるんですね。」

「ハイ、まぁ…そのつもりです。」

「少々お待ちくださいね。」

店員は席を立つと、トレイにいくつかの指輪を乗せて戻って来た。

「この辺りが、スタンダードな婚約指輪ですね。ダイヤの大きさやデザインはいろいろありますが、最近人気のあるものは、こういった物が多いですよ。」

「そうなんですか…。」

トレイの上の指輪を手に取り、ユウは考える。

どの指輪もいかにも婚約指輪と言う感じで、シンヤの言っていた“結婚したら、だいたいは箱の中で眠ってる”と言う言葉が脳裏を掠めた。

ユウは店員に聞いてみることにした。

「婚約指輪って、結婚したらあまり身につけない物なんですか?」

「えっ?!」

店員は少し驚いた様子でユウを見た。

「いや…。結婚してる友人にそう聞いたもので…。できれば、結婚してもずっとつけていてもらいたいかなと…。」

ユウの言葉に、店員はなるほどと言った様子でうなずいた。

「確かにそうですよね。結婚したら結婚指輪をつけますし。左手の薬指に合わせて婚約指輪を買われると、そうなるかと思います。家事をする時に、立て爪のダイヤの指輪ですと、いろいろ不便もありますからね。」

「なるほど…。」

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