結婚の定義──君と僕を繋ぐもの──
「……。」

ユウの言葉に、レナはそっと目をそらす。

「レナ…。何か、言って…。」

レナはうつむいたまま、静かに口を開いた。

「私が須藤さんと結婚しようと思ったのは…ユウを、忘れようと思ったから…。」

「えっ…。」

レナはそらしていた目を、まっすぐユウに向ける。

「何も言わずにいなくなって…10年もそのまま帰って来なくて…もうこれ以上待っても、2度と会えないんじゃないかと思ったの…。」

レナは起き上がってパジャマのボタンを留めると、少し乱れた髪を手櫛で整えた。

「ずっと、またユウに会えるの信じて待ってたけど…もう、待ちくたびれたから、待つのはやめようって…。須藤さんに結婚しようって言われてずっと悩んでたけど…、私を一人にしないって言われてね。もうこれ以上一人でいるのは寂しくて嫌だったから、だったらもう、ユウのことは忘れちゃおうって。」

レナはグラスに氷を入れ、ウイスキーとミネラルウォーターを注ぎ足して、マドラーでくるくると混ぜた。

「ユウのことが好きだったけど…それがどういう“好き”なのかもわかんなくて…。ユウとまた会おうとか、将来を約束していたとか、そんな訳でもないし、ユウがいなくなっちゃう前も、私を避けたり他の子と付き合ったり噂になったりしていたし…もしまた会えたとしても、私のことなんかどうでもいいのかも知れないなって思ったり…これ以上待っても、もうどうにもならないって。だから、ズルイかも知れないけど…あの時私、須藤さんに、甘えようとしてたの…。」

レナは苦しげに言葉を絞り出すと、水割りをぐいっと飲み込む。

「須藤さんは、結婚するからって無理に好きにならなくていいって言ってくれたけど…私は、結婚する以上は、時間をかけてもちゃんと須藤さんを好きになろうって思ってた…。」

ユウは黙ってレナの話を聞きながら、グラスに残っていた水割りを飲み干した。

「婚姻届を書くのも何日も先延ばしにして、須藤さんが私より先にニューヨークに行く前日ギリギリまで書けなくて…。でも、私は須藤さんと結婚するって決めたんだからって覚悟を決めて、なんとか書いて…。」

レナはユウのグラスにも新しい水割りを作って差し出した。




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