結婚の定義──君と僕を繋ぐもの──
海外から始まった1月も、ユウがレコーディングに明け暮れているうちに、もうあと少しで終わろうとしていた。

二人で婚姻届を書いて1ヶ月が経つのに、まだ挙式の日も入籍の予定も決まっていない。

リサのアトリエで完成間近の衣装を見てから、レナは時々、ふと不安になる。

結婚しようと約束はしたものの、具体的には何も決めていない。


婚約指輪をもらったのは本当に嬉しかった。

別になくても…と思っていたが、あの照れ屋のユウが、レナのために一人で指輪を買うために店に足を運び、選んでくれたと言うことが、本当に嬉しかったのだ。

あんなに高そうな指輪でなくても良かったのにとも思うが、それがユウの気持ちなのならば、ありがたく受け取っておこうと思った。

クリスマスに二人で婚姻届を書いた時は、いよいよこれから夫婦になるんだと思った。

この婚姻届を役所に提出すれば、ユウと同じ片桐さんになるんだな…と、早くそう呼ばれたいような、照れ臭いような気持ちになった。

年末年始は久し振りにロサンゼルスの祖父母に会いに行き、ユウを紹介した。

祖父母はユウをとても気に入って、二人の結婚を喜んでくれたけど、結婚式はいつなの?と祖母に聞かれても、まだ決めてない、としか答えられなかった。

(ユウ、日本へ戻ってからずっと、レコーディングで忙しそうにしてるし…帰りが遅かったり、バンドのみんなとの付き合いで飲みに行ったりもするから、晩御飯も一緒に食べられないこともよくあるし…。アルバムが発売してしばらく経ったらツアーでしょ…。ツアー前はスタジオでリハーサルとか…忙しいんだろうな…。)

ユウが自宅で療養している期間、レナが休みの日や仕事から帰った後は、ずっとユウと一緒にいたので、なんだか急にユウが忙しくて留守がちなのが寂しく感じてしまう。

(ユウみたいな仕事は、ある程度は忙しい方がいいんだもんね…。わかってるけど…。)

いつの間にか、ユウがいないとダメになっている気がする、とレナは思う。

思えば、長い間離ればなれで、ユウがどこで何をしているのかはおろか、生きているのかさえもわからないような状態だった。

寂しくても、会いたくても、どうすることもできなかった。

ユウがいないのが当たり前の生活は、今では考えられない。

考えたくもない。

(遅くなっても、ちゃんと、ただいまって…私のところに帰って来てくれるんだもん。幸せだよね…。焦ることないのかな…。一緒にいられるんだもんね…。)

レナは、そう思い直すと、小さな笑みを浮かべてため息をついた。

(慣れって、怖いな…。)




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