結婚の定義──君と僕を繋ぐもの──
その日ユウは、一人でリサの職場である`アナスタシア´の社長室を訪ねた。

リサと会うのは、レナと暮らし始めて2ヶ月が過ぎた頃に挨拶して以来だ。

会議が終わるまで少し待っているように通された社長室の応接セットに腰掛けながら、今回はレナに何も言わずに一人でリサの元を訪ねたこともあり、ユウは緊張しながらリサを待っていた。

(リサさん、心配してんだろうな…。)

程なくして、会議を終えて社長室に現れたリサはニコニコと笑ってユウに声をかけた。

「お待たせ!ユウくん、久し振りねぇ!!」

緊張の面持ちでリサと対面したユウだったが、その明るさに拍子抜けしてしまった。

「お久し振りです…。」

鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしているユウを見て、リサはおかしそうに笑う。

「今日はどうしたの?」

「いや、その…。」

言いにくそうにしているユウを見て、リサはまた笑った。

「ああ、もしかしてあの話ね?」

「ハイ…。」

秘書が運んできたコーヒーに口を付けると、リサは穏やかに微笑んだ。

「ユウくんと一緒に暮らすようになって、レナは本当に幸せそうにしてるの。たまに会っても、ユウくんの話ばかりしてるわよ。」

「えっ…。」

(それってどんな話?!)

「レナは小さい頃から、ユウくんのことが大好きだったからね。ユウくんがいなくなった時には本気で心配もしたけど、人前であまり感情を出せなかったあの子が、嬉しそうにユウくんの話をするの。ユウくんと一緒にいられて幸せだって。すごく大事にしてくれるって…。聞いてるこっちが恥ずかしくなるくらい、幸せそうに話すのよ。」

「そうですか…。」

ユウの知らないところで、レナはそんなふうに自分のことを話してくれているのだと思うと、嬉しくて胸がいっぱいになる。

「私は、何も心配なんてしてないわよ。レナが幸せなら、私も幸せだから。自分の子なのに誉めすぎかも知れないけど、不器用なりに思いやりのある子だと私は思ってるから、ユウくん、これからもレナをよろしくね。」

「ハイ。ずっと大事にします。」

ユウがリサの目をまっすぐに見てそう言うと、リサは嬉しそうに微笑んだ。


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