結婚の定義──君と僕を繋ぐもの──
その日から、ワイドショーやネットニュースはユウの悪評で持ちきりになってしまった。

幸い`ALISON´は新しいアルバムの制作に重点を置いている時期で、テレビなどメディアへの出演予定が当分なかったことだけが、せめてもの救いだった。

あんなひどい記事が週刊誌に掲載された後も、レナは変わらずユウに接した。

人目を避けて部屋にこもるユウが心配だったが、レナはいつも通り笑い、仕事に通い、食事を作り、いつもより優しくユウを抱きしめた。

次第に元気がなくなっていくユウを見ているのはとてもつらかったが、それでもレナは、こんな時だからこそ自分がユウを支えなければと気丈に振る舞った。


そんなレナの優しさがユウには時折苦しくて、いつしかユウはレナの目をまっすぐに見ることもできなくなってしまった。

毎晩ベッドの中で、レナに背を向けて眠るユウを、レナは何も言わずただ優しく抱きしめる。

あんなに幸せだった二人の間に、すきま風のような冷たいものが流れ込むのをレナは感じていた。



そして事態は更に思わぬ方向へと向かった。

翌週発売された例の女性週刊誌に、レナの記事が掲載されたのだ。


“あの肉食ギタリスト・ユウの恋人は魔性の女だった!!”


“有名写真家・須藤透と婚約破棄の過去!!”


“須藤を捨て人気ギタリスト・ユウに乗り換えた後も須藤の元で働くアリシアのしたたかさ”


その記事はレナの須藤との婚約破棄や、その後ユウと付き合いながらも須藤の事務所でカメラマンを続けるレナを叩く内容だった。

(一体どこでこんなことを調べあげるんだろう?)

レナと須藤が婚約していたことは、あまり周囲の人間には知られていなかったはずなのに、レナが須藤と婚約した経緯や、ニューヨークで僅かな期間を一緒に過ごした須藤との婚約を解消して日本に戻りユウと付き合い始めたこと、その後も須藤の事務所でカメラマンをしていることなどが多くの脚色を加えて、おもしろおかしく書かれていた。


(まさかこんなことまで記事になるなんて…。)

それでもレナは、その記事をどこか他人事のように思っていた。

(事実と違う…。)

あの時須藤は、幼い頃からユウを大切に想ってきたレナの気持ちを理解した上で、ユウのいる日本で自分の手で幸せを掴めと背中を押してくれたのだ。

レナが“長年付き合って婚約までしていた恋人の須藤を捨てて日本へ戻り若くて人気のあるユウに乗り換えた”訳ではない。

たくさん悩んでたくさんの涙を流したできごとだったのに、そんなことはおかまいなしに土足で人の心を踏みにじるような記事も、それを書いた記者も許せなかった。

(人を傷付けるような記事を書いて、何がおもしろいの?)


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