結婚の定義──君と僕を繋ぐもの──
信号待ちをしながら、レナはコーヒーを飲む。

やがて信号が青になると、レナはブレーキを離し、ゆっくりとアクセルを踏む。

「相変わらずレナの運転は安定感抜群ね。」

「そう?」

「うん、乗り心地が最高。」

「車がいいからじゃないの?」

「これ、買ったの?」

「ううん、ユウの車。電車通勤だったけど、熱愛報道の後から車通勤に変えたの。ユウが心配して、人目につきにくいから車で行った方がいいって。」

「ふうん。相変わらず片桐はレナに甘いね。」

「……そうでもない。」

レナの意外な返事にマユは険しい顔をする。

「どういうこと?」

「うん…。ユウ、最近塞ぎ込んでる。なんかいろいろ悩んでるみたいで、ほとんど話さないし、私の顔もまともに見てくれない…。」

「えっ?!」

「私はいつも通り普通に接してるつもりなんだけど…。ユウ、何も言ってくれないから、私もどうしていいのか…。」

レナの言葉を聞きながら、マユはユウと再会してすぐの頃にバーで話したことを思い出す。

他人が見ればどうでもないようなことを、ユウは誰にも言わず悩みに悩んで、一人で答えを出し、大事なことを自分の中で終わらせようとする癖があるようだ。

それは高校時代に、“どんなに好きでもレナは自分のことをただの幼なじみとしか思っていない”と、抑えていた気持ちが抑えきれなくなって暴走したこともそうだが、その結果誰にも言わずにロンドンに行ったこともそうだ。

レナがニューヨークへ行った後にユウのことが心配になって電話した時には、“もう遅すぎるって言われて、今更好きだなんて言えなかったから、自分の手で終わらせたんだ”と魂の抜けたような、か細い声でそう言っていた。

「おかしなこと考えなきゃいいけど…。」

マユの呟きに、レナが首を傾げる。

「ん?」

「いや…片桐、意外とメンタル弱いから心配で。一人で思い悩んで、悪い方へ悪い方へ考え込む癖があるみたいだから。」

「そうなの?」

「うん…。特に、レナのことになると普通じゃないくらい悩んで落ち込むから。」

「知らなかった。」

「片桐を悩ませてるのも無自覚だったか。」

「何それ。」

車はマユの住むマンションの前に到着。

停めた車の中で、マユはレナに言う。

「私もいろいろ気になることがあるから、あの記事の出所とか、ちょっと調べてみるわ。何かわかれば対策も考えられるでしょ?」

「ありがと、マユ…。でも、ただでさえ忙しいんだから、無理しないで。」

「大丈夫よ。私の人脈と情報網の広さをフルに活用して、何か突き止めてみせる!!私がアンタたちの力になれるとしたら、こんなことくらいしかないからね。」

優しくも力強いマユの存在を、レナは改めて頼もしく思った。

(ありがとう、マユ…。私、本当にいい友達をもって幸せだよ…。)



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