結婚の定義──君と僕を繋ぐもの──
悩んだ末、レナはリサの職場を訪れた。

リサに電話をしても、なかなか本題を切り出すことができなかったレナだが、リサは何も聞かず、見せたい物があるから会社に来るようにと言ったのだった。

「レナ、待ってたわよ。」

リサは、笑ってレナを出迎える。

「やぁね、疲れた顔して!どうせ持ち帰った仕事、夜遅くまでしてたんでしょ?」

レナは何も言わず曖昧に笑みを浮かべた。

「それで…見せたい物って…。」

「ああ、こっちよ。ついてきて。」

リサのアトリエに足を踏み入れると、トルソーに着せられた真っ白で華やかなドレスがレナの視界に飛び込んできた。

「これって…。」

「ウエディングドレスよ。どう?」

「……うん…。」

「あれ?気に入らない?」

「ううん、素敵だよ…。でも…。」

レナの目から、ポトリと大粒の涙がこぼれ落ちた。

「誰かのためにこれを着ることは、一生ないかも知れない…。」

リサは、うつむいて静かに涙を流すレナの肩を抱いて、優しく頭を撫でた。

「何があったの?」

「ユウに…嫌われたみたい…。一緒にいる必要なんてないって…。」


母親である自分の胸で子供のように涙を流すレナを見て、リサは思う。

今まで、こんなことはなかった。

レナは母親のリサの前でさえ、何があっても弱音を吐いたり、涙を見せたりすることが1度もなかったのだ。

(レナ…よほどつらいのね…。)



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