結婚の定義──君と僕を繋ぐもの──
レナは、お風呂に浸かりながら考える。

リサと二人で一緒に食事をしたのはいつ以来だっただろう?

特に、ユウと暮らし始めてからはたまにしかリサと会わなかった。

(母親って…寂しくないのかな…?リサは独身だし、仕事終わったら一人だよね?)

普段のリサはどんなふうに暮らしているのだろう?

高校を卒業するまで、レナは幼少の頃から住み慣れたマンションでリサと一緒に暮らした。

大学に進むとレナは大学のすぐそばのマンションで一人暮らしをし、リサは東京で会社のそばにマンションを購入した。

大学卒業後、須藤の事務所に勤めることになったレナは、上京して通勤に便利な場所にマンションを借り、一人暮らしをしていた。

レナがニューヨークから戻った後はユウと暮らし始め、仕事以外の時間はほとんどユウと一緒に過ごした。

(考えてみたら、リサと一緒に過ごした時間って、ほんのわずかなのかも…。ユウがロンドンに行く前までは、リサよりユウと一緒に過ごした時間の方が長いくらいだもんね…。)

それでもレナはリサを信頼しているし、リサもレナを愛し温かく見守ってくれる。

(それって、親子だからかなぁ…。血の繋がりとか親子の絆ってやつ?)

男女の仲とは全然違うものだろうかと自分の腕に視線を落とした時、レナは腕にアザを見つけた。

それはユウに強く腕を掴まれた跡だった。

不意にユウのことを思い出す。

(一緒に暮らしていても、ユウは私を信じてくれなかった…。)

ユウはどうしているだろう?

何を考えているだろう?

(ユウは…私がいなくなったことなんて、なんとも思ってないのかも…。)

また、レナの目に涙が込み上げてくる。

(もう、ユウと…元のようには、戻れないのかな…?このまま本当に、別れちゃうのかな…。そんなのいやだよ…ユウ…。)

“離れたらダメ”と、マユに言われたことを思い出す。

でも、どんなにレナが手を伸ばしてもユウは遠くへ離れてしまう。

そして、ユウからレナに近付いたと思ったら、嫌がるレナを押さえつけて乱暴に傷付けた。

(もう、どうしたらいいのかわからない…。)


レナは湯船の中でひとしきり泣いた。

レナの涙は頬にいくつもの筋を作り、やがて浴槽のお湯の中に消えていった。


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