結婚の定義──君と僕を繋ぐもの──
ユウは、見たことのない広い空間をさまよっていた。

(ここ、どこだ…?)

足元はふわふわと不安定で、回りには花が咲き乱れ、小鳥がさえずり、蝶が花と戯れるように舞っている。

(オレ、どこに行こうとしてるんだろ…?)

歩き続けると、いつしか美しい小川が流れる場所にたどり着いた。

(これって…。)

何かの本で読んだ、あの世への入り口のようだとユウは思う。

(でも、これって天国?)

散々好きでもない女の子を食い散らかして、誰より大切なレナを傷付けて何度も泣かせてしまった自分には、天国より地獄の方がお似合いだとユウは苦笑いする。

(そっか…オレ、死んじゃうんだな…。)


それならばせめて、レナに謝りたかった。

たくさん心配かけて、何度も傷付けて、泣かせて、信じてやれなくて…本当に悪かったと、謝りたかった。

こんなどうしようもない自分を愛してくれたレナに、ありがとうとお礼を言いたかった。

そして……。

(あの時…愛してるって…、どこにも行かないで、オレのそばにいてくれって…素直に言えば良かった…。)


レナの言うことを聞こうともせず、レナを傷付け、心にもない言葉を吐いてしまったことが、ユウにとって一番の心残りだった。

(もう…会えないんだな…。)

愛しいレナの顔ばかりがユウの頭をよぎる。

(本当は、ずっとオレの隣で笑ってて欲しかった…。あんな顔させたかったわけじゃないのに…。今更過ぎるかな…。ホントにバカだ、オレ…。)

小川の流れを見つめながら、ユウはため息をつく。

(ホントに、オレの人生、やましいことだらけだ…。)


ゆっくりと顔を上げると、小川の向こうに二人の男性が立っていた。

(誰だろ…お迎えかな…?)

二人の男性は優しく笑って手を振る。

「ユウ!!大きくなったね!!」

少し茶色がかった髪と瞳を持つ男性が、ユウに声をかける。

(誰だっけ…どこかで見覚えのあるような…。誰かに似てるような…。)

その時、ユウは茶色い髪と瞳を持った、その人によく似た愛しい人を思い出す。

「あっ…レナの…!!」

それはレナの父親のケンだった。

「ユウ!!本当に大きくなったな!!」

もう一人の男性もにこやかに笑って手を振る。

(こっちは…誰だっけ?)

ユウは記憶の欠片をかき集めるようにして考える。

どこかで見たことがあるその顔を、ユウは思い出して叫んだ。

「オヤジ!!」

写真の中で笑っていた、ユウの父親だった。

(死んだ二人がそろって出迎えとか…。オレ、いよいよあの世へ行くんだな…。)


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