結婚の定義──君と僕を繋ぐもの──
翌日、ユウは退院の報告に事務所を訪れた。

しばらく入院していたこともあって、随分久し振りな気がした。

社長室では、社長が笑って出迎えてくれた。

「一時はどうなることかと思ったが、とりあえず無事退院できて良かったな。」

「ご心配おかけしてすみませんでした。」

「もう怪我の方は大丈夫なのか?」

「しばらくリハビリすれば大丈夫みたいです。ギターはまだ医者に止められてますけど…。」

「そうか。頑張って早く復帰してもらわんとな。復帰したらまずは新しいアルバムの制作だからな。」

「ハイ。」

社長は顎をかきながら笑みを浮かべる。

「しかしアレだな。とりあえず、一連の騒動もなんとかおさまって良かったな。」

「その節はご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした。」

ユウは深々と頭を下げる。

「それにしても、たいしたもんだな。」

「え?」

「高梨さんの娘さんだよ。」

「あ…。」

社長は腕組みをしながら笑っている。

「マスコミの前で、あれだけ堂々と話すとは…すごい度胸だ。妙な憶測で誤解されたり周りに迷惑かけたりして、黙ってられなかったのかもな。オマエ、今回は彼女に救われたな。」

「ハイ…。」

「高梨さんから、娘は人見知りで目立つのが嫌いで人前に出るのが大の苦手で…って聞いてたんだが、随分印象が違ったんで驚いたよ。」

「オレもビックリしました。小さい頃から見てきた彼女とは別人みたいで…。」

ユウがそう言うと社長は声をあげて笑った。

「大事な人を守るためなら、自分の弱点も克服してしまうくらい強くなれるんだ。女って生き物は本当に強いな。まぁ、それくらいの強さがないと、夫を支えて子供を産んで育てて、家庭を守ることなどできんのだろう。」

「はぁ…。」

「あんなに大勢の前で、しかも全国ネットで、ユウのことを愛してる、私にはユウしかいないなんて言わせたんだから、オマエも男なら覚悟決めろ。」

「えっ?!」

唐突な社長の言葉にユウは面食らった。

「他の男に持ってかれる前に、早く嫁にもらっちまえ。あんないい女オマエにはもったいないくらいだがな、あの子は相当オマエに惚れてるらしい。ちゃんとその気持ちに応えてやれ。まだプロポーズもしてないんだろ?」

「ハイ…そういう話はまだ…。」

「オマエいくつだ?もういい歳だろう。」

「29です。」

「もう三十路か。ちょうどいい頃合いなんじゃねぇか?オマエは男だからまだいいが、女はそういう訳にもいかんだろ。」


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