結婚の定義──君と僕を繋ぐもの──
その頃、ユウはシンヤの部屋で、無言でコーヒーを飲んでいた。


ユウは午前中に病院へ行き、お昼前にリハビリを終えて病院を出た。

病院を出てすぐにシンヤから電話があり、遊びに来いとよばれて部屋に行った。

ユウがシンヤの部屋に行くと、シンヤは近所のイタリアンレストランでランチのデリバリーを注文してご馳走してくれた。

食事をしながら、先日サトシにあったことや同級生が何人か上京しているから同窓会しようと言われたことなど、他愛のない話をした。

食事を終えてコーヒーを飲みながら二人でタバコに火をつけると、シンヤが煙を吐きながら静かに呟いた。

「オレとマユ、離婚することになった。」

「えっ?!」

唐突なシンヤの言葉に、ユウは驚き、慌てふためいて煙でむせそうになる。

「それ、どういうことだよ?!」

シンヤは苦笑いを浮かべる。

「マユがさ…離婚しようって。別居して随分経つし、無理して夫婦でいなくても、もういいんじゃないかってさ…。」

「えっ…。」

ユウにはシンヤの言葉が信じられなかった。

再会して間もない頃にバーで話した時、マユは愛しげにシンヤの話をしていた。

シンヤのことを必要な人だと言っていた。

でも、別々に暮らしている理由を話した時のマユは、とても寂しげだった。

シンヤは高校生の頃から、誰よりもマユを大事にしていた。

シンヤとマユがお互いを大切に想い合っているのは端から見ていてもわかるのに、なぜ離婚の話になるんだろう?


それからシンヤは静かに話し出した。

「結婚してしばらくは、当たり前のように一緒に暮らしてた。お互いに忙しくても二人の生活は楽しかったよ。結婚して1年半経った頃にマユが妊娠してさ…でも、ダメだったんだ…。それからマユは自分を責めてばかりで、オレといるとつらそうで…。それでもオレはマユを手離したくなくて、少しでもマユのつらさが和らげばと思って、別々に暮らそうかって言った…。たまに会うと夫婦って言うよりは学生の頃の、オレが一方的にマユを想ってた時みたいで…。あれからマユはオレに触られんのも嫌みたいでさ…。今のオレたちは、夫婦って言いながら全然、夫婦じゃないんだよ。オレのマユへの気持ちは変わらないけど、もうこれ以上…オレのわがままで、マユを縛り付けるのは可哀想だからさ…。マユには幸せになって欲しいし、笑っていて欲しい…。たとえそれがオレの隣でなくても…。」

ユウは唇を噛み締めた。

「シンちゃん、このまま別れて本当に後悔しないのか?!この前シンちゃん、オレに言ってくれたじゃん!!伝えたいことはちゃんと言葉にしろって!!シンちゃんは1度でも佐伯に本音を言ったのか?!」

「ユウ…。」

「離したくないって、一緒にいたいって、ちゃんと言えよ!!」







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