結婚の定義──君と僕を繋ぐもの──
「来たか。」

事務所に着くとまっすぐに社長室へ案内されたユウは、目の前にいる社長に頭を下げる。

「おはようございます…。」

「やられたねぇ。」

「はぁ…。」

社長は週刊誌をめくりながら、誌面に掲載された二人の写真に視線を落とした。

「彼女、高梨さんの娘さんだろ?」

「ハイ。」

「で、二人はどうなの?ホントに付き合ってんの?」

「ハイ。」

何もやましいことはないのだからと、ユウはまっすぐに社長の目を見て答えた。

「そうかー。いつから?」

「半年くらい前から付き合ってます。」

「きっかけはPVか?」

「いえ…。彼女とは幼なじみで…。でもまぁ…あの日の雑誌の撮影のカメラマンが彼女で、10年ぶりに再会して…。それがきっかけと言えばきっかけなのかも…。」

「なるほどねぇ…。」

社長はユウの話を聞きながら、まじまじと週刊誌の写真を眺める。

「で、二人は真面目に付き合ってるのか?」

「もちろんです!!」

勢い良く返事をするユウに、社長は笑い声を上げた。

「いや、別に清純派が売りのアイドルでもないし、真面目に付き合ってんなら、オレとしては別にいいんだけどさ…。高梨さんの手前もあるし、いい加減な付き合いならやめとけって言うつもりでいたんだけどな。」

「はぁ…。」

「とりあえず、今はオマエらのバンドにとっても大事な時期だから、できるだけ目立たないように気を付けとけ。出る杭は打たれるって言うだろ?オマエらの人気を妬んだ奴等が、どこでオマエらを陥れようと狙ってるかわからんからな。」

「ハイ…。」

そこでユウは、ふと思い出す。

「社長…。」

「なんだ?」

「オレたち、付き合い出した頃から一緒に暮らしてるんですけど…。」

「そうなのか?!」

社長は顎に手をあて、うーんと唸った。

「まぁ、こんな写真を撮られたからって離ればなれになるのもおかしな話だしな…。それこそ二人の付き合いが真剣じゃないみたいだし。」

「オレたち、別にやましいことなんて何もありませんよ。」

「そんくらいオマエの顔見りゃ分かるよ。」

社長はおかしそうに笑うと、週刊誌をゴミ箱に投げ捨てた。

「ま、とりあえず高梨さんとメンバーには、騒ぎになったことへの詫びは入れとけ。そのうち騒ぎも収まるだろ。くれぐれも、目立つことだけはするなよ。」

「わかりました…。」

その後ユウは、マネージャーの運転する車でマンションまで送り届けられ、レナの待つ部屋に戻ったのだった。



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