結婚の定義──君と僕を繋ぐもの──
怯むユウを見てシンヤはおかしそうに笑った。

「難しく考えなくてもいいんじゃね?まず大事なのは、婚姻届けを出すことだろ。役所に行って窓口で婚姻届け下さいって言えば、届けを出すときに何が必要か教えてくれる。」

「そうなんだ。」

「結婚式のことは式場に行けば担当者が相談に乗ってくれる。それよりまずは、二人で具体的なこと、ちゃんと話し合えば?結婚って甘い幻想抱きがちだけど、ガッツリ現実だし。結婚式を挙げるのがゴールじゃないからな。そこから二人の生活が始まるわけじゃん?」

「オレたち、もう一緒に暮らしてるけど。」

「まぁそうなんだけどな。その点は抵抗なくスムーズに行くだろうけど、やっぱり同棲と結婚は違うんだよ。」

「同棲って…。まぁそうなんだけど…。」

ユウは、今まで使ったことのない同棲と言う言葉の響きに、なんとも言えない恥ずかしさを感じた。

「同棲って言うと無性に気恥ずかしいだろ?」

「うん…。」

「でも結婚したらさ、一緒に暮らしてない方が異常な感じじゃん。この間までマユと別居婚だったからさ、オレも散々言われたよ。」

「なるほどね。同じ“一緒に暮らしてる”でも、恋人と夫婦では世間からの認知のされ方が違うわけだ。」

「まあな。結婚したら所得税の課税の割合とかいろいろ変わるんだぞ。」

「ふうん…。」

結婚はまるきり未知の世界だなとユウは思う。

(ちゃんとやってけるかな、オレ…。)

結婚に対して少し自信がなくなりそうになる。

「結婚するって、世間に自分たちの関係を認めてもらう代わりに、公的義務とか責任とかを果たすってことなのかもな。」

「シンちゃん、大人の見解だねぇ…。それがシンちゃんの結婚の定義なんだ。」

「結婚の定義?」

「うん。」

「表向きはそうかもな。」

「建前ってこと?じゃあ本音は?」

シンヤは結婚式の写真が飾られた写真立てを手に取り、ウエディングドレス姿のマユを愛しそうに見つめた。

「決まってるだろ。マユと一生愛し合って、添い遂げることだよ。」

「…だろうね。」

昔と変わらずマユを愛しそうに見つめるシンヤを見て、結婚しても変わらないものもあるんだと、ユウの胸は温かくなった。


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