その瞳に映りませんように
あわあわと思考を巡らせていると。
「ごめん。そんなん言われたことないから、リアクションとれない」
と、ユズキくんはぼそっとつぶやいた。
通常モードのけだるそうな目で、私の視線をするりとかわしたけど、その頬はほんのり赤く染まっているように見えた。
その目を見つめていると、突然、右手に温もりを感じた。
――え?
びくっと体が反応してしまう。
彼の左手が私の右手に触れていたのだ。
その温度は、心臓を大きく揺らすとともに、一気に私の体温を上昇させた。
その手が離れると同時に、ガサリ、とさっきのチョコの包み紙が私の右手から抜き取られた。
目の前のユズキくんは、目的の物――左斜め下を見ていたようだけど、
私の反応にはっと気がついたのか、急に視線を上昇させた。
コンタクト紛失未遂事件以来、再び、間近で私たちの視線が重なった。
いつも通りの7割開きで、黒目が上に浮きがちな、その目。
その焦点は、まだ私の目に100%は合っていないように見えた。
しかし、視線をそらせないでいると、
その目はゆっくりと優しそうに細められ、黒い瞳に私の姿をくっきりと映し出した。
もともとは目尻が下がり気味の二重まぶた。
そう和らげられると、普段とは真逆――彼の温かい感情に心が包まれていくかのよう。
もう一度、どくんと大きな鼓動が体に響いた。
「ゴミ、捨ててくる」
微笑みながらそう言ったユズキくん。
私の分の包み紙を手にして、入り口近くのゴミ箱へ向かっていった。
単にチョコのゴミを捨ててくれただけ。
そうそう。それだけそれだけ。
彼の後姿を見ながら、自分の気持ちを懸命に落ち着かせた。
しかし、心臓が通常モードに戻った瞬間、もう1つのもやもやが私の中に生まれてしまった。
――なんだ、あんなに優しい目、しちゃうんだ。