その瞳に映りませんように

あ、ユズキくん、もう席にいる。


この前、彼の前から逃げ出してしまったことを思い出す。


ずん、と重い音で心臓が鳴る。


何で? やめてよ……。


ユズキくんは今、私に視線を向けている。


「…………」


私はそれを見ないようにして、無言のまま席に着いた。


ごめんね。


自分の気持ちを整理させたいから。

だからもう少し時間が欲しい。


しかし、

とんとん、と後ろから肩を叩かれる。


「ん?」


彼の方を振り向かないまま、私はそれに反応した。


「今日顔色悪くない? 大丈夫?」


今どんな目をしているか分からないけど、

聞こえてきたのは心配そうな彼の声だった。


確かに病み上がりで頭がぼーっとしているし、食欲もまだ回復しきっていない。


友達は誰も気にかけてくれなかったけど、

ユズキくんだけは気がついて心配してくれている。


つん、と喉の奥が痛んだ。


「ちょっと土日で風邪ひいちゃってさー。もう治ったしうつすことはないはず!」


私は机の中に手を突っ込みながら、明るめにそう答えたが――。


あ、ポーチ! トイレに忘れてきちゃった!


私はユズキくんの視線から逃げるように、走ってトイレに戻った。



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