その瞳に映りませんように
0.2
「昨日はごめんね。これどうぞ」
次の日の朝。
登校してきたユズキくんは、よくコンビニでバラ売りされているチョコバーを私にくれた。
「わ、いいよ気にしなくて~。でも、ありがとう」
「それ美味しいから食べてみて」
「あ、ほんほうだー! ふふうのほりもちょっとこうばしいー」
「ちょ、そんな慌てて食べなくていいって」
ただの座席前後つながりから、宿題を見せ合ったり、部活やテレビの話をしたりする仲へ。
相変わらず彼と視線が交わることはほとんど無い。
ある授業後の休憩時間。
苦手な数学の問題を教えてもらいながら、冗談っぽく聞いてみた。
「話すときとかに、すっと視線外すのって、くせ?」と。
失礼かな~、と思ったけど、
「俺人と目合わせるの苦手で。にらまれたって言われることあるし」
とユズキくんは瞳を横に動かしながらつぶやいた。
ほう、なるほど。
「でも彼女さんとかにはどうするの?」
「それは別。やっぱ好きな子だったら見たいじゃん」
へーえ。そうなんだ。
ついでにもう一つ聞いてみよう。
「ユズキくんって、毎日楽しい?」
「はい?」
一瞬だけ、ユズキくんは上目で私を見た後、すぐ視線を手元のノートに戻した。
「いや、その、いつもだるそうっていうか、ちょっと眠そうって感じで」
これはさすがに怒られるか、不快に思われるかな?
と思ったが。
「それも目のことでしょ。よく言われる。別にそういう訳じゃないんだけど。
しょーがないじゃん、両親の顔ミックスされてこうなっちゃったんだから」
「あはは、そうなんだ。失礼なこと聞いてごめん」
私が笑いながら頭を下げると、
「もうそれ結構失礼だよ。一応俺だって普通の楽しいDKライフ送りたいんですよ」
と言って、ユズキくんは視線を落としたまま、口角のみを上げた。
そして、ちらっと鋭い視線を私に向け、
「見すぎ」
とつぶやき、再びまぶたを伏せた。