わたしのイトリくん
「まぁ料理はからっきしなんだけどね〜」
自分の為にご飯を作るやる気は起こらず、
この一ヶ月は出来合いのモノを食べたり、食べなかったり...
「ですね。だってこのキッチン、この前俺が片付けた時のままですもん...」
はあ、と呆れたような声で私を見たイトリくんは、
この部屋の住人よりも慣れた手つきでお茶を淹れはじめた。
「そうだ!私ずっとイトリくんの作ったピラフが食べたいって思ってたの!」
私は思い出したように
ソファの前のテーブルにお茶を置いたイトリくんに話しかける。
「ヒイロさんピラフ好きですね」
「だって本当に美味しいんだもの」
私はイトリくんの腕を掴んでブンブンと振った。
「わっちょっと!」
危ないですよ!とイトリくんは声を上げる。
まったく、どちらが歳上か分からない。
イトリくんは観念したかのようにため息を吐く。
「分かりました分かりました!今度作りますから!」
その言葉が聞けたので、腕を放してあげた。
『今度』って言葉、
今まで好きではなかったけれど。
(今度ってことは、また次の約束が出来たってことよね。)
どうやらこの一ヶ月、イトリくんが居なくなったことが
私の中で相当なダメージだったのだろう。
たったその一言で胸がいっぱいになる。