わたしのイトリくん
「あの、それでイトリのことなんですけど...
今朝、あいつから『大学、辞めることになった』ってメールがきたんです。」
「え...?」
湊人くんの言葉に、
一瞬、思考が止まる。
あの手紙は、冗談なんかじゃないって。
本当なんだって。
どんどん心臓が冷えていく感覚に陥る。
「ヒイロさん?大丈夫ですか?」
湊人くんの心配そうな顔を見てハッと我に返る。
「...ごめんね。
やっぱりそうなんだね」
「え?やっぱりってどういうことですか?」
そして私も昨日、イトリくんと会ったこと、
今朝の置き手紙について話した。
話し終えてから、2人してため息を吐いた。
「あいつ...大丈夫なのかよ...」
「湊人くんは、その...イトリくんが実家に何をしに帰ったのか聞いてはいないんだよね?」
湊人くんは、少し考えるようにして話し始めた。
「俺がイトリについて聞いて、知ってることを話しますね。
イトリがまだ小学生くらいの時に両親が離婚したみたいで、
あいつは最初、母親に引き取られたらしいんです。
...でもそのイトリの母さん、病気ですぐに亡くなって。
それで今度は父親に引き取られて。
だけどその父親は仕事ばかりの人で、ほぼ家に居なかったらしいんです。
それでイトリの面倒は歳の離れた兄貴が全部してくれてたみたいなんですよ。」
初めて聞く、イトリくんの生い立ち。
私、全然イトリくんのこと知らない。