僕には霊感があった。


一歳になったばかりの娘が死んだ。歩き始めたばかりで、その可愛らしさときたら……。彼女の愛くるしい仕草を見ているだけで、僕の口元は自然に緩んだ。仕事の疲れやストレスも、魔法でもかかったかのように、一瞬にして消えるんだ。

そう、とても幸せだった。


事故だった。それは、僕が仕事中の白昼の出来事。妻が娘を連れて買い物に出かけた時に起こった。

信号待ちで停車中、居眠り運転のトラックに後ろから追突されたそうだ。妻は車で出かけるとき、必ず後部座席のチャイルドシートに娘をきちんと座らせていた。

だけど、事故直後、車の後部座席はぺしゃんこだったらしい。


僕たち夫婦の悲しみ、喪失感はとても耐えられるものではなかった。そのためか、娘が死んだ直後から数日間の僕の記憶は、ポッカリと穴が空いたように抜け落ちていた。


気付けば、すっかり病んでしまった妻との陰鬱な毎日。それでも僕は、妻を愛していた。今、妻を失ったら、僕は完全に生きる目的を失う。生きる意味などなくなるだろう。

今はただ、妻のためだけに生きている――妻が僕を生かしている、そんな状態だった。


妻は、友紀(ゆき)――娘――はここに居ると言う。まるで本当に傍にいるかのように振舞う。もしかしたら、友紀の霊がそこにいて、妻には彼女が見えているのかもしれない。

でも、だとしたらおかしい。

僕には霊感があった。物心ついた頃から、人には見えないものが僕には見えていた。けれどその姿は、生きている人のそれとほとんど変わりがなく、僕個人では判別が難しい。

僕に見えているのに、周りには見えていないと気付くことで、ようやくその存在を知るといった具合だ。


空白の数日間に何かあったのだろうか。僕の霊視能力が妻に奪われたのだろうか。それとも、妻はただ病んでしまっているだけなのか。

もし本当に友紀の霊がそこに居るのなら、僕も見たいと思った。霊感を取り戻したいと強く願った。


ああ、友紀に会いたい……。


< 2 / 6 >

この作品をシェア

pagetop