明日の僕らは
◇◇◇

2月14日土曜日

2度目の、病院。

恐る恐るカーテンを開いたそこに、ベッドから起き上がっている彼女がいた。


しっかりと目を覚ましていて…俺が訪れたことに、オーバーなくらいに驚いて見せた。

「あれ、間宮くん?どうしたの?」

「……。田迎こそ、どうした」って、逆に驚きのリアクションを返してみた。

それにしても、事故翌日に会ったときと大違い。
すごい回復力だ、と…胸のつっかえていたモノがスーっと取れた気分だった。



「聞いたんだ?事故のこと。わざわざ来てくれたの?」

「うん」

「そっか。・・・ありがとう。・・・うん。私どうしてここにいるんだろうって自分でも思う。車で事故ったらしくて。見てここ、14針縫ったらしい。」

彼女は髪の毛を掻き分けると、バリカンで刈られたようなツンツンとした髪と、そこにある生々しい傷口を…俺に見せてきた。

久しぶりにまともに会話するのに、余りにも…距離が近い。

「あんまり覚えてないんだけど」そう、前置きしながら…正面にあるカレンダーへと、視線を移した。

しばらくじっと…
じいいっと…それと対峙して。

「8日の朝に事故ったんだって。まさか人生で救急車に乗る日が来るなんて…。」

事故の経緯をひとしきり喋り倒しては…、また、カレンダーを見る。

「13日の金曜日にICU出て、えっと…今日は?何日だっけ。」

「………14日だね」

「あー…、そっか、つまり昨日だね、個室(ココ)に移ったの」

自分で話題を振っておきながら、自分で納得している。

たった1日前の話だ。
随分惚けた発言だと思った。

彼女は…何度目になるかも分からない、大きなあくびをしては……

突然、思い付いたかのように声を上げた。


「……あ!ねえ、『13日の金曜日』!…もしかして…ジェイソンだったりする?」

俺を指さして、オーバーに怖がる動作を見せるけれど。

一体どういう思考が働いたのか?

恐らく短絡的に『13日の金曜日』ってキーワードに反応したからだろうけど…、

突拍子もない、発言だった。

「誰がジェイソン?」

キョロキョロと辺りを見渡して、戯けて応える。


「田迎。今日は、ここ。【14日】ジェイソンは来ないと思うよ」

カレンダーの【14】を、トントン、とノックした。

「………そうか、うん。そうだった」

「そもそも、俺、田迎を襲う理由がない」

「そりゃあそうだよね!・・・そう・・・だよね」

呑気にも笑ってるけれど。
その笑顔に、いささか不安が過るのは。……何故だろう。

ずっと話なんてしてなかったのに、まるでいつもそうしているかのように、軽快に続く…会話。

昔と同じように…軽口を叩いていることに、違和感を…感じないのだろうか?

不思議だとは…思わないのだろうか?

今…俺がここに居ることに。









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