明日の僕らは
だいぶおぼつかない足取り。

攻撃の要として機敏な動きを見せていた、あの、立派なしゃもじ足が?

マネージャーとしてチョロチョロしていた、要領の良さは?

その面影が…微塵もない。



手すりにつかまって、よろめいて。歩いて、止まって・・・。それを繰り返して。

一歩一歩が驚くほどに慎重だった。

「危ないよ。・・・掴まって」
思わず手を・・・差し伸べた。
手を伸ばし、るいは、それを握ろうとして…躊躇した。

「うん。あのね、肩を…貸して」って小さな声で言われた。

俺が前を歩くその後ろから、彼女は遠慮がちに肩に手を置いて…ゆっくり、ゆっくりと…導かれるようにして、トイレに向かって歩く。

「実はあんまり平衡感覚がないんだよね」

「………じゃあ…、もっとしっかり掴んで」

「……だって…」

「ん?」

「間宮くん、背が高いから、掴みづらい。看護師さんは小さかったからさ…凄くちょうど良かったんだけど」

「じゃあ、他掴む?」

彼女の手を掴んで…、アウターの背中部分へと…運ぶ。

ギュッと指先で摘まむようにしているけれど・・、一向に顔を上げない。

それはそれで、やっぱり危なっかしくて・・・
結局俺は彼女の肩を抱き、支えるようにしながら・・・歩みを進めた。









トイレの前までやって来ると、ここでも「待ってて」とお願いされた。

「……うん。いいけど…。あ、一緒じゃなくていい?」

その、上目遣いは……彼女は、とくに意図して行ったものじゃあないだろうけれど。

珍しくしおらしくて、ハッとさせられるような…、そんな表情だったから、いかにも異性を感じていないような、サイテーな言葉を…投げかけてしまった。

「バカ。……変態」

「言うね。待って。ホラ、思い出した思い出してきた。田迎なんて、女子トイレが空いてない時、堂々と男子トイレの個室を占拠してきただろ?俺らそのたび、めっちゃ焦ってた」

「………いつの話?」

「1年生の時かな。もう、トラウマもの」

「……。いやいやいやいや?ちょっと、もー…、ナイナイ、嘘ばっか」

彼女はケタケタと笑って…、それから、俺の背中をバシンっと音を立てて…叩いた。


「はい、今のファウル。田迎、レッドカード」

「はいはい、退場しますね」



こんな……明るいやり取りを。

二人で交わすことがあるだろうことなんて…数日前の俺たちは、想像できただろうか。



悔しさと…、何か。

その、何かは……分からないけれど。ぐっと込み上げて来るものを、必死に堪えるようにして――…。


ぎゅっと、ぎゅうっと、拳を握りしめていた。





トイレへと連れてったその後、ここに居るのが少し辛くなって。

弱っている田迎をどこか直視できない自分がいて。





この日はそれで…適当な理由をつけて、帰ってしまった。









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