明日の僕らは
◇◇◇

そして、今日で…、会いに来たのは3回目。
2月15日日曜日。


俺がそこを間違うことは…決してない。

目の前で、事故のことを流暢に話している彼女…、田迎るいは……それに、気づいていない。


日付を追うことができていない。

まるで初めて話すかのように、同じ会話を繰り返す。


自身の出来事の確認作業のように。悪びれもなく、怖がりもせず、喋り続けるのだ。



「あ…、そうだ。頭の傷、見てみる?なん針か縫ってるらしいけど…自分じゃ見えないからさ―…、今どうなってるのか、教えて?」


昨日…14針縫ったって自分で言ってたぞ、と…言おうものなら、どんな顔をするのかが…想像も出来なくて。

「髪触るのって…なんかやらしい?」と、自ら逃げ道を…作った。


あの傷を……、もう一度見ようとは、どうしても思えなかった。

「ねえ、間宮くん。変態なの?」

そんな俺にとって、一番イタイ台詞を吐いた彼女は。


剃られた部分に…自分でそっと触れながら、

「また、ショートにしよっかな」と…、うつむいてしまった。


「……うん。どっちでも」

今のサラサラとした長い髪も。
昔のえらく短い、ベリーショートも。
どちらも…、似合ってる。

これは俺の…本音だった。

「投げやり過ぎる。興味ないのはわかるよ、わかるけどさ。」

じとっと…睨み付ける瞳が。怒っているようにも…見えるけれど。

「…………………。」


視線が…噛み合わない。

昨日から感じる違和感は、これだ――…。


「違う。そうじゃなくて…どっちも似合うってこと」

「……うん。ありがと。ね、ね、そのリップサービスは、バレンタインだから?さすが…モテる男は違う」

「……モテ…、うん。モテたかもしれないけど」

「うわ。認めた!」

「謙遜したら面白くないでしょ」

「もう。なんで面白さを求めるかな」

何で、とこっちが聞きたかった。
何で突然…、バレンタイン?

俺が昨日…、14日にここに来たことだって忘れてるのに?

バレンタインデーだと、気づきもしなかったのに?



「……田迎。昨日話したこと、覚えてる?」

「……?誰と話したこと?」

「……………。いや、だよね。ごめん。何でもない」

何かの心理が…働いたのか。

それとも、しきりにカレンダーを見ているのうちに…思い付いたのか。

彼女の思考回路は、
少し…ズレてはいるけれど。

記憶と現実を結びつけることが…できるのか?


「あ。そーだ、思い出した!」

期待を持たせるような言葉が…、突如飛び出す。

けれど…、それは。

次の瞬間には、見事なまでに…裏切られてしまった。

いい意味でも、
悪い意味でも――…。


「あのさー、冷蔵庫開けてみて」

彼女に促されるまま―…、俺はその扉を開く。

「チョコ入ってるでしょう?それ、とって」


彼女に…それを手渡すと。

すぐさま箱から1個だけ取り出して。
それを、俺の手元へと…戻した。


「……なに?くれるの」


「鈍いなあ。ハッピーバレンタイン?」

「…………………。」

「お母さんにね、買ってもらった」

「……どこが…」

「ん?」

「どこが…バレンタイン?」

いかにも…彼女らしくて。

いかにも…義理チョコで。

けれど、1日遅れのこれが…、昨日の自分達と繋がっているようで。


それは、それで…

嬉しかった。







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