明日の僕らは
◇◇◇

『るい!』

『……るいっ!!』


また…私を呼ぶ声。

また、夢を見ているのだろう。



この広いピッチ。
目の前に立ち憚るサッカーゴール。

手元のサッカーボールを額につけて、目を瞑り…祈りを捧げる。




ああ、そうだ。
これは……あの日、あの時、

小学6年生の……私。









6年間の集大成。
一番大きな大会。
「全日本少年サッカー大会」の県大会は…ノックアウト形式。トーナメントで100を越えるチームの頂点に立ち、我がチーム初の全国大会への切符を手にした。

決勝は前後半2-2の同点による延長戦。…でも決着がつかずに、PK決戦となった。

一人目。
度胸あるど真ん中へと、いとも簡単に決めたのは、脩人。

二人目は、ミドリ。
キーパーには絶対に届かない、左上の豪快なシュート。



勝敗を決めたのは…、私だった。
相手が外した直後。3人目のキッカー。

チームメイトが皆で肩を組み、祈るようにして…「るい!」と口々に名前を呼んだ。

ミドリは、小さい声で「右。グラウンダーで隅に」と呟いたのち。

バシッと背中を叩いて…送り出した。


額にボールを付けて、目を瞑り…祈る。

私は、『右下』と心の中で呟きながら…ゆっくりと目を開き、一瞬、ゴール左上へと目をやった。

ボールを置いて、主審を見る。
手が上がると同時に笛が鳴り、小刻みに走って…振り構える。

キーパーが僅かに動く瞬間。

爪先の向きをスッとかえて……

小気味良い音を立てたボールは、狙い通りの右隅へ。

左手で、小さくガッツポーズをして…その手をそのまま、高く高く、翳した。


逆方向に飛んだキーパーは、ピッチへと倒れ込んで…そのまま、顔を伏せていた。


わあっ!と歓声が上がり…そして、チームメイト達は、膝元ついて泣き崩れた。

しんどい試合だった。
全ての力を使い果たしていた。
……限界だった。



人指し指を立てて『NO.1』を誇示しながら…皆の元へ走っていくと。

唯一立って待ち構えていたミドリが…初めて、私に要求したハイタッチ。

「ナイッシュー!」

パチン、と汗ばんだ手と手が…合わさった。

「勝った!すごい、お前のお陰で、勝った!」

初めての大会から…5年の月日が経っていた。
あの日泣きじゃくった涙は…幼き日の二人にとって、悔しさを滲ませたものだったけれど。

最後の大会は、お互いに笑っていた。



正確には、最後ではない…けれど。

来るべき全国大会。
遠方で大会に、寄附金を集めたり、準備をしたりと大人達はただただワクワクする子ども達をよそに忙しかっただろう。新幹線や電車を乗り継ぎ、チャーターしたバスでの移動中にどんちゃん騒ぎする横で、爆睡する姿があった。

未知への挑戦は、地に足が付かず…どこかフワフワとしたままで。

名門クラブチームが揃う戦いの舞台では…実感が湧かないまま、あっという間に笛の音が鳴り響いた。



ピ、ピ、ピー!!




天然芝のピッチは、広く広く感じた。


ゴールは小さく感じた。


チビを、やっぱりチビだったんだ、と実感させられた。


上には上が。どこまでも果てなく存在するんだ、痛感させられた。


呆気に取られて。
涙すら……出なかった。


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