明日の僕らは
サッカーは、これが最後。

雪が降って、あとはフットサルへと…切り替わるから。

幾つかの招待されたフットサルのカップ戦では、比較的好成績を残し…

3月。
いよいよ、卒団の日を迎えた。

スペシャルマッチと称し、沢山のゲームを行った。


監督やコーチからの餞の言葉と、後輩たちからの出し物と、

各々に誓う、それぞれの…決意表明。

映し出されたスクリーンの中には、あの、イガグリ頭とベリーショートもいて。

大いに笑った。

お世話になった沢山の人たちとの別れを惜しみつつ、見送られた私たちは…
最後の集合写真を撮って。その、写った写真には……あの、小さすぎる男の子はもう居なかった。

その冬、いつの間にか私の背丈を越えたミドリは…いつかとは違うキリっとした顔つきで、しっかりと前を見据えていた。



記念品に貰ったボールは、いつも使っているボロボロのそれと違っていて、ひとまわりもふたまわりも小さくて…ツヤツヤとしていた。

派手な色つきのサッカーボールではない。

至ってシンプルな、白と黒のそれは…サイン用のボール。

けれど、私はそれを箱から出すことはなかった。
今日で別れを告げる4号球、ボロボロのボールをリュックから出してきて。小さいピカピカの方を、リュックへとしまった。

大人達に油性のマジックを預けられ、おまけに廊下に1列になって…まるでボール運びリレーの如く、1人1人へのメッセージを書いては…次の人へと渡して。
6年生15人。
最後には飽きて淡白で汚い字になっていることは重々承知ではあったが、思春期に足を突っ込んだ時期。もちろん照れ臭くて…それもみんな、「らしかった」。

私は、手元に戻って来た自分のボールをくる、くると回しながら…メッセージを読んでいった。

そのすぐ脇、そのボールで「リフティング」してしまううっかり屋もいて…笑って集中が途切れていたけれど。

何度回しても、数を数えても。
1人分…足りない。

『中学校に行ってもサッカーに勉強に頑張ろう!』……1
『中学でもヨロシク』……2
『目指せ!なでしこ』……3
『類は類を呼ぶ!』……4

「……って、ん?ちょ、コレ名前の漢字違いだし、自分で自分呼んじゃってるし。……友を呼びたい」

『お~♪る~い♪るうーい~るうーい~、るうーい♪はい、はい、はいは』
…11

「サポーターのチャント?って書ききれてないし」

『男子サッカー部で待ってます』……13。

「……ちょっと。どういう意味?」

……13。やっぱりひとつ、足りない。

誰に聞いても、皆自分以外の14人分のメッセージはちゃんとあって。

なぜ私だけ?と、最後のイタズラをしたのであろう君の方へと、ぐるっと振り返る。

「ミドリ~‼」

「ん?」

「受けとって!」


きっと、最後になるであろう…ヤツへのパス。

ミドリはボロボロボールを胸でトラップして。
2,3回足で蹴り上げキャッチする。


天然なのか、わざとなのか…訝しげに、首を傾げる。

「え。なに?」

「『なに』って…書き忘れ。失礼だよ、名コンビと呼ばれた相棒に対して」

「………『相棒』。…基本の基本、思い出して」

ミドリが…両手振りかぶって、すぐさま『スローイン』で返して来る。

「……?」

ヤツは至って真面目な顔して。

「るいのパスがいつも俺に通るのは?」

「………へ??」

「オフ・ザ・ボールの基本」

「………ん?んん?」

……なぜかこちらを、問い詰める。

「『見える』所にいても、意味ない。じゃあ、どーする?」

「裏をとる」

「わかってんじゃん。『逆取り』」

「…………いや、今その話ではなくて」

「だから…るいには見えてるでしょ?俺のいる場所」

「…………」

「……考えてプレーしているようで、してないのがるいか…。まーいや。じゃ。俺、引っ越し準備ヤバイからもう行くわ」

さも、バカだなあ~といった笑みで踵を返すミドリは…。

サッカーの時と同じ。私に背中を見せつけて…

イチ早く、会場を出ていった。


じゃあな、とか。また、とか…
そんな言葉も言うこともなく、あっさりと…行ってしまう。

後ろを、過去を振り返ることをしない前向きさはいかにも君らしかったけれど…

あと一緒にプレー出来る日が、来ないかもわからないっていうのに……

寂しいと思ってしまうのは、私が弱いからだろうか?


今日でもう、着ることもないだろう皆とお揃いのピステを…その、胸元を…ぎゅっと握りしめた。

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