明日の僕らは
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幼少期の私は、2つ年上の兄・侑壱が所属するサッカースポーツ少年団にちょこちょこ連れて行かれ…
退屈することもなく、グラウンドやフィールドの周りで…夢中になって遊んでいた。
兄貴たちの試合など、そっちのけ。
けれど…至る所に転がるボールは、格好の遊び道具だった。
誰のかもわからないサッカーボールを、ポン、と足で転がす。
逃げていけば…追いかけて、
相手が返して来れば…受け止める。
フェンスがあれば。
ネットが…張られていれば、足を振り抜いて、強く球を蹴ってみる。
誰かのお父さんが、キーパーを演じ…横たわっては、「ナイッシュー!」と誉めてくれた。
無意識に、本能的に。
『サッカー』の本質的なモノが…刷り込まれていった。
そう…、影響を受けないワケはなかった。
小学校入学と…ほとんど同時に。
何ら迷いもなく、スポ少へと入団した。
サッカーは、遊びだ。
そして、白と黒のピカピカのボールは…相棒だった。
優しいコーチは、いつでもゲーム感覚で、私たちと遊んだ。
ビブスをサッカーパンツに挟んで尻尾とりゲームをするのも。
頭上に高く放り投げたボールをキャッチするまで…何回拍手出来るかを競うのも。
コーチの後ろを追って、ぐるぐるとドリブルして走るにも。
キャッキャと笑い声を上げて…無邪気に楽しんだ。
学校のグラウンドの片隅…、木陰の下。
そこが…私たちの練習場だ。
けれど……一方で、炎天下の下。
そこには、三角コーンやマーカーを使って、必死にボールを操る…兄ちゃんプレイヤーたちがいた。
厳しい声が…彼らを駆り立てるようにして。
歯をくいしばって、汗を拭う。
兄も所属するカテゴリー。
その中に、一際目立って小さい少年がいた。
多分、背丈は私と同じくらい。
休憩時間…、ドリンクを飲む傍ら、大人たちが…いつもいつでも、その小さい少年を…評価していた。
「上手いな」
「10年にひとりの逸材」
「U−10でも通用するんじゃあないか」
その子は、色んな意味で…目立っていた。
ボールを跨ぐようにして相手を欺く…鋭いシザース。
身体をくるりとなめらかに回転させて…ディフェンダーをかわす、ルーレット。
まるでボールは…体の一部として、見事にコントロールされていたのだ。
彼が背負った、大人たちの期待はきっと、余りにも大きかった。